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背景と目的
2020年7月3日から日本付近に停滞した前線の影響により暖かく湿った空気が継続して流れ込み,九州地方を中心に広い範囲で大雨になった.7月3日から8日までの総降水量は九州南部・北部地方で1000mmを超え,7月の月降水量平年値の2〜3倍となる記録的な大雨となった.この大雨について,気象庁は7月4日午前4時50分に熊本県・鹿児島県に対して大雨特別警報を発表した.また,7月6日16時30分には長崎県・佐賀県・福岡県に対して大雨特別警報を発表した.この大雨により,熊本県や福岡県,大分県を中心に死者82名,全壊111棟,床上浸水7,899棟などの被害が生じた(内閣府,2020).気象庁は7月9日に一連の降雨活動を「令和2年7月豪雨」と名称を定めた(気象庁,2020).
筆者らは,内閣府等で構成される災害時情報集約支援チーム(Information Support Team:ISUT)の活動の一環として,熊本県庁および鹿児島県庁での災害対応における情報支援活動を実施した.本発表では令和2年7月豪雨において大きな被害が発生した熊本県を事例に,熊本県庁を中心とする災害対応を行う災害対応機関が,災害対応を行う中で必要となる情報をどのように共有し利活用したのかについて,地図情報の活用とその課題を報告する.
令和2年7月豪雨における地図情報の活用
ISUTでは被災都道府県での情報支援活動を行うにあたって,情報共有・利活用のためのWeb-GIS環境を構築している.災害対応においては被災状況等の情報を共有し状況認識の統一(Common Operational Picture:COP)を図ること,それに基づいて各機関が的確な対応することが重要である(Wash, D.W. et al., 2005).状況認識の統一においては,地理空間情報およびWeb-GISを用いることで,災害による被害状況等を空間的かつ容易に把握することが可能となる.
令和2年7月豪雨における熊本県では球磨川流域に位置する人吉市,球磨村,芦北町で河川氾濫に伴う浸水被害が発生した.特に球磨村,芦北町では浸水発生等に伴い道路通行不可となったため,孤立集落が多数発生した.孤立集落では早期の救助や生活支援が必要となる.孤立集落の解消という目標を達成するためには,複数の災害対応機関による同時並行の対応が求められる.孤立集落解消のための道路啓開作業では,優先度の高い孤立集落を選定し,それにかかわる道路啓開のための復旧作業を行い,それが完了した集落から救助や医療支援を行うといった対応がスムーズに行われることが理想的である.こうした対応をスムーズに行うために,孤立集落の状況や道路啓開状況,医療支援状況などが一目で分かる情報共有が重要となる.この課題に対して,ISUTによる支援を含むWeb-GISを用いた情報共有を行うことで,組織横断的に状況認識を統一した活動を実施することが可能となった.
災害対応における地図情報集約・活用の課題
様々な情報をWeb-GISに集約することで,災害対応における各機関の状況把握や認識の統一が図られ,情報利活用による意思決定や対応の検討が可能となる.ただし,Web-GISによる情報共有においては,情報を収集する段階で形式的に定義された様式での整理が必要となり,災害対応中にそれを確定することは困難である.そのため,事前に災害対応に必要とされる情報に関しては,形式化されたフォーマットを用いて情報収集を行い,迅速な情報共有が可能になることが望ましい.また,形式化されたフォーマットで集約される情報をそのまま地理空間情報として表現するだけでなく,災害対応を行う主体の役割や目的に応じて,空間分解能を考慮した情報に変換し利活用につなげることが重要である.
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